Mini日記
Mini日記
ダンパー交換
2011年5月22日日曜日
来週末の5/29日曜日に神奈川県の宮ヶ瀬ダムでミニのイベント(宮ヶ瀬レイクサイドパーティ)があり、参加する予定です。そこに同じく参加するブログ友達のファンダンゴさんが怒濤の勢いでミニをモディファイしているのに触発され、ダンパー交換を前出ししてしまいました。
金曜日の夜にファンダンゴさんがキャブをウェバーに交換する記事を発見 → 自分も何かしなければならない衝動に駆られネットで部品を漁るもいいアイデアが無い → 注文したダンパーがSTOCK Vintageに届いていることを思い出す → プリンミニさんに土曜日取り付けを打診 → わずか10分後にOKの返事 → 嬉しくて土曜日超早起きするも嫁さんにどう切り出していいか分からず午前中つぶれる → 東名かっ飛ばして14:30ごろ到着、交換、試乗 という激しい一日でした。今週は仕事がきつくて疲れ切っていたはずなんですが、人間がんばれるもんですねw
ダンパーはエナペタルを選択しました。ビルシュタインの国内正規サービスセンターとしてダンパーの販売やオーバーホールをする一方、ビルシュタインの技術をベースにしたオーダーメイドのダンパーを作ってます。 その中には「Vintage Line」という旧車用の脚周りを特注できるシステムや「MotorSport Line」という競技向けの特注システムもあります。ミニの世界ではマイナーですが、ジムカーナやダートラといった競技の世界では有名なブランドです。
どんなダンパーかというと、昔ランエボに乗ってサーキットでのタイムアタックにはまっていた時につき合っていたショップの強い勧めでエナペタルの車高調整式ダンパーを使ってまして、ジムカーナ用セッティングの相当に硬い脚周りでしたが、サーキットのコーナーで縁石に乗り上げても車が跳ねないんですよ。音にするとドシュッ、背中に伝わる感覚で言うとニュルンとすり抜けてしまう感じで、トラクションも脱けずゴキゲンな脚でした。
「踏ん張るのに跳ねない」というこのダンパーの特徴がまさにミニに合っているのではないかと思ったのと、ハイドロ車なのでフロント2本しかダンパー付かないためミニ用の4本セットを買っても後輪分が無駄になるし、それならその代わりにフロントの2本にお金をかけて特性をチューニングしてしまおう、というのがエナペタルを選んだ理由です。
エナペタルではその気になれば減衰力特性だけでなくチューブの径、長さ、ストローク、ジョイント形状など全てフルオーダーできますが、それなりに高価になってしまいます。ミニの場合はジョイント部分のブッシュが他の車よりも小さいらしいので、ジョイントとチューブはミニ用の市販品をそのまま利用し、中のバルブ構成を変更して減衰特性だけ変えることにしました(どう変えたのかは後述)。チューブにロットナンバーが追加されてます(左上の写真)。ジョイント部分もノーマルのゴムブッシュをそのまま利用してます(右上の写真)。
ビルシュタイン/エナペタルの構造上の特徴ですが、アルミ鍛造製の単層一体成形チューブを使ってます。
右上の写真でSPAXのダンパーと並べてますが、SPAXではチューブの右端に一周溶接した部分があって、本体の円柱部分と減衰力調整ノブを含む末端部分を溶接してつないでいるのが分かります。
一方、ビルシュタインは溶接一切なしで成型してまして、アイスホッケーのパックのようなアルミの固まりに圧力をかけて引き延ばし、そのまま円筒の形に仕上げてます。元々のパックの部分が筒の底、ジョイントの取り付け部分になるわけです。 鍛造のため強度が高く精度はサブミクロン単位、しかも溶接加工がないため後工程で歪むことも無いという理想的な構造です。材料フェチとしてはこの段階で「買い」ですが、この構造上の利点がビルシュタインダンパー特有の特性に効いてます
(詳しくは後述)。
交換後のエナペタルダンパー。取り付けスペースの問題でミニ用の40mmΦのチューブをそのまま使ってますが、可能ならば60mmΦの大容量チューブを使いたかったです。
ここからダンパー特性詳細です。
上の図は一般的なダンパーの減衰力曲線です。横軸がダンパーの変位速度で縦軸がその時に発生する減衰力を示してます。減衰力調整式をイメージしてSoft、Medium、Hardの3本を書いてみました。
ダンパーの減衰特性が車の操縦性に影響する部分として、おおざっぱに言うと、(A)ゆっくりとした変位、(B)少し速い変位、(C)速い変位 の3つの変位速度領域があります。
(A)の領域が使われる状況としては、高速コーナーリング中のロールや、路面の細かい凹凸から来る振動とか、加速時のフロントのリフト、ブレーキング時のノーズダイブ、ピッチングなどがあります。この領域できちんと減衰力が出ないとこれらの振動や車両の挙動が抑えきれないということになります。
一方、もう少し速い変位速度である(B)の領域はタイトコーナーでのロールや路面の継ぎ目からの衝撃などの状況で使われますし、さらに速い変位速度である(C)の領域は段差や縁石に乗り上げた時の衝撃や悪路での連続的な衝撃などの状況で使われますが、これらの領域で減衰力が大きすぎると、路面からサスペンションに衝撃が入っても全く吸収せずに反発し、車が跳ねてしまう結果になります。
減衰力調整式のダンパーではこれらの特性を何段階かで調整することができるようになっています。
例えば SPAXを一番ソフトなセッティングで使うと(A)の領域で減衰力が出ません。ダンパーを両手で持って縮めると非力な僕の力でも動かせるほどですから、この状態ではこの領域の車両挙動や振動を抑えきれないことになりますが、おそらく(B)および(C)の領域、例えば荒れた路面等では振動をよく吸収できる乗り心地の良いサスペンションになることでしょう。逆に高速コーナーで踏ん張れるようにしようとして減衰力調整ダイヤルを締め込み(A)の領域の減衰力を上げると、(B)や(C)の領域の減衰力まで上がってしまって荒れた路面で跳ねまくることになります。これが減衰力調整式ダンパーのジレンマです。
オーリンズやアラゴスタなどのダンパーでは変位速度の低い領域と高い領域の減衰力を独立して調整できるものもありますが、パーツ数が増えるために信頼性や寿命が低下するという欠点があります。
上の図は今回作ってもらったエナペタル製ダンパーと、元になったミニ用のビルシュタイン市販ダンパーの減衰力曲線です。横軸がダンパーの変位速度で縦軸がその時に発生する減衰力を示してます。
ビルシュタイン/エナペタルの場合、(A)の領域の中でも1秒間に1cm程度の極めてゆっくりした変位速度の領域からきちんと減衰力が出てますが、変位速度が速くなる(B)および(C)の領域ではカーブが垂れて減衰力が初期の傾きほどは上がらなくなるという特性を持ってます(デグレッシブ特性)。
(A)の領域の、それもかなり低い変位速度からきっちり減衰力が出るということがビルシュタイン/エナペタルの特徴ですが、例えばダンパーを手で押すと他のダンパーとの違いがよく分かります。ダンパーの両端を両手で持って縮めようとしても僕の力ではびくとも動きません。ダンパーを机の上に立てて体重を乗せて押せばようやく動くくらいです。それぐらいきっちりと低い変位速度領域から減衰力が出ているわけで、この領域の振動や車両挙動を減衰できることを示してます。簡単に言うと、高速コーナーではきちんと踏ん張り、路面の細かな振動はきちんと減衰してステアリングに伝え、加速時や減速時のピッチングも抑えることができます。一方、(B)および(C)の領域ではデグレッシブ特性により減衰力がそれほど大きく出ないので、これらの状況でも跳ねない、乗り心地が悪化しないという結果になります。
ビルシュタイン以外にもバルブ形状を工夫してデグレッシブ特性を実現しているメーカーもありますが、僕の知る限りではビルシュタインほど極端にデグレッシブにはできていないと思います。その最大の原因は部品の精度です。低い変位速度できちんと減衰を出すにはピストンとチューブの間を確実にシールする必要があり、その点でビルシュタインのサブミクロンオーダーで精度管理できている鍛造モノチューブ構造が活きているわけです。
ビルシュタインは減衰力調整ができないのが欠点のように言われることがありますが、上述のように変位速度の低い領域と高い領域の減衰力を高いレベルで両立させているわけで、下手な調整式よりもロバスト性は高く、シンプルであるが故に耐久性も高いと思います。市販の状態で満足しない人のためにエナペタルのようなチューナーもいるわけですから、これ以上望むことはないです。
・・・・なんかまたマニアックになってしまった。ビルシュタインの手先のつもりは全く無いんですが、Wikiでエナペタルを検索したら「ブルジョアの脚」とか説明されていたりしたのでちょっとムキになってしまいました。価格ではなく、材料とメカニズムの極地からくるストイックなコンセプトを理解してほしいです。それにしても最近ではビルシュタインやエナペタルからも減衰力調整式のダンパーが出てたりしますが、市場に日和るな、コンセプトを貫け、と言いたいです。
本題に戻ります。エナペタルで今回作ってもらったダンパーでは、このデグレッシブ特性をキープしたまま全速度領域でビルシュタイン製のノーマルに比べて2割ほど減衰力を上げてもらいました。フロント2本しかダンパーがないので全変位速度領域で効率的に減衰させようというねらいです。
実際に装着しての乗り心地ですが、プリンミニさんを助手席に乗せて試乗会をしてみましたが、あえて路面の荒れたところやマンホールにタイヤを乗せて走っても全然跳ねません。僕の表現だとやっぱりニュルニュル〜という感じ?でフラットライドでクリアできます。プリンミニさんも驚いてました。
また、首都高速の路面の継ぎ目でのショックはかなりマイルドになりました。効果を比べるために動画撮影したんですが、カメラのステーが揺れてしまって動画では差がよく分かりませんでした。僕の腰がかなり楽になったので間違いないでしょうw
120km/hr以上でステアリングに伝わってきていた細かい振動も激減し運転が楽になりました。
ただ、それ以上のスピードだともう一回り強い減衰が欲しいかな、とも思いました。大径チューブが使えると(A)領域の減衰力を大幅に上げることが可能で全て解決できるんですが、それは今後の課題にしてとりあえず来週、宮ヶ瀬までのワインディングを楽しもうと思います。